NYの日経新聞が主催する「米国発金融危機の行方」と題されたセミナーに行ってきた。ワシントン駐在の日経記者の方が現在の金融危機について話すということで、200人ほどいた会場は満員だった。さすがジャーナリストの方の話なので、(賛成するかどうかは別として)非常に分かりやすかったので、備忘録として書いておく(自分なりの意訳というか理解も加えて書きます)。
現在のクレジットクランチは、食の安全の問題に例えればわかりやすい。これはようするにこういうこと。
1.いろいろなクオリティーの牛肉(その中には食べられないものもある)を、混ぜてひき肉にして、スーパーで家庭用に売ったり、業務用としてレストランに卸されハンバーガーと消費者に食べられている。(肉=もともとの住宅ローン、挽肉=MBSやCDO等の住宅ローン証券化商品、更に加工されたハンバーガーやつくねはさらに複雑で形を変えた金融商品)。
2.その中には実はクオリティーの低い牛の肉(つまりローンが払えないアメリカの低所得の住宅購入者)が混ざってたりして、食中毒の被害なんかも出てくる(つまりローン支払の滞り)。
3.でもミンチになりいろいろ混ざっているのでどの肉が原因なのかはわからない(つまり証券化されており中身はよくわからない)。
4.肉はいろいろな流通経路をたどって最終的に消費者の胃に入る。さまざまな卸業者、食品製造業者、スーパー、レストランなど等を通る(つまり世界中の金融機関が証券化された商品をあちこちで売っている)。したがって最終的な損失がどのくらいになるか全く把握できない。
5.しかもスーパーで売られている挽肉のパッケージのラベル上では品質の安全性が保証されていたが、実は産地や品質が偽装されていた(MBS等の証券化商品は大手格付け機関によって高格付されていた)。
6.原因が分からないので、質の悪いものだけではなく、すべての牛肉が買われなくなり、その価値がさがる。
7.マーケットは疑心暗鬼になり、牛肉以外の肉やその他の商品(鶏肉等)も買われなくなり、すべての価値もさがる。
8.牛肉や関連製品を在庫として持ってる関連業者は在庫処分をする(つまり金融機関による金融商品の評価損計上)
9.スーパーやレストランや食品流通業者(つまり金融機関)は資金繰りができなくなり潰れる。
10.食品業界全体に対する不安が、他の業界にもつなががり、世界的な株安になる。
なるほどこれは分かりやす例えだと思った。数年前までは、「牛肉は体にいいし、ミンチされているもの(証券化されてローン)はほとんどが品質のよいものなので安心ですと」言われ、みんなもどんどん買っているのでその気になりいろいろなところで流通され、この金融商品の価値はうなぎのぼりだったが、世の中が疑心暗鬼になっている今は反対に「少しでも品質の悪いものがあるなら買わない」という状態になり、価値がどんどんさがり在庫処分(評価損計上)されている。最終的にはなにもが信用できない状態になり、株価がさがっている今の状態になる。Credit crunchとは直訳すれば「信用収縮」であり正に他人が信用できないことを今の状態のことになる。
実際には牛肉ではないが、まさに今現在中国産の食品やおもちゃ等の製品でおきている消費者による不安感と同じ状況なのである。
この問題の複雑さ、及び政府の無能さの証として、この人は7月に北海道で行われたサミットの話をあげていた。たった3ヶ月前に世界中の偉い人たちが集まる「経済」サミットでは、地球温暖化問題ばかりが話され、クレジットクランチの問題やほとんどあがらなかったと。その数ヶ月前にBear Sternsを見せしめとして救済していた(JPMorganによる買収という形で)アメリカ政府及びアメリカに言いなりの他の国たちはこれで金融危機は解決したと見込んでいたらしいとのこと。
たしかにそういう雰囲気(つまりこれで景気は上向くだろうという根拠のない期待)はあったが、そういう雰囲気をつくっているのは、日経を含むマスメディアではないのかな。とくに日本の新聞を読んでいると、アメリカの報道をそのままうまくまとめて、時には批判らしい口調を適当にまじえて論説しているだけのような気がする。クレジットクランチ問題についてのアメリカのマスコミの報道の仕方も千差万別であり、よくわかっていないようなものが多く見られるが(そういう私ももちろんわかっていないからマスメディアを追うのであるが)、それはこの今の実態経済とかけ離れたクレジットの問題がいかに複雑かということを示していることに他ならないのかもしれない。
ちなみにこっちで読んでいる新聞で一番わかっていて読みやすいのはイギリス色の強いFinancial Timesではないかと個人的には思っている(それはアメリカという国を客観的にみているからかもしてない)。
他にもこのジャーナリスト氏の話で印象に残った点は。
- 今の状況は90年代の日本のバブル崩壊とよく比較されるが、日本では不良債権の処理問題としてそれぞれの銀行の体力の問題(内部的な問題)だったので、わかりやすく処理もしやすかったが、現在の状況は問題となっているアセットが金融商品として世界中の市場に出回ってしまっているので、マーケット全体、世界経済全体の問題になっている。この先いつごろ景気は回復するか、みたいな話は軽々しく予測できないくらい複雑で底の見えない問題である。→まったく同感です。
- 景気のバブルという経済事象は、資本市場には必要なもの。バブル(つまり資産価格の上昇という意味であろうが)とは、技術革新や、人々の景気に対する期待感などいろいろなプラス材料が重なってできる状態なので良いものである。→これはどうかな。今の世の中の、本源的な価値を超えて資産価値が上昇してしまうようなバブルには弊害の方が多いような気がする。金融技術や金融商品の仕組みが複雑になり、ますますバブルの膨らみ方としぼんだ時の世の中に与えるショックが大きくなりすぎているのが問題だと思う。